[H19.9.17更新]
平成14年の稽古再開から、平成17年の春季審査合格までの経過をまとめてみました。
1 稽古の再開
平成14年3月、会社を完全にリタイヤーし、毎日が日曜日の生活となりました。
たまたま母校の剣道部創立50周年記念行事に参加したところ、卒業後も稽古を続けている先輩、後輩がたくさんいることを知りました。歳を取ってしまったけれど、もう一度楽しみながら剣道をやって見たいと思うようになりました。
この歳になって、新しいことをゼロから始める勇気もなく、ある程度自信を持って取り組めるものが、剣道以外に何もなかったこともあります。
ここ30年以上、ほとんどまともに稽古したことはありませんでした。
今から丁度32年前になりますが、昭和48年5月、京都の審査会で六段を頂いて安心したのか、次第に稽古から遠ざかってしまいました。
昭和59年、時々、思い出したようにやっていた稽古で左アキレス腱を断裂しました。それ以後は今回の稽古再開までの間、一度も竹刀を握ることはありませんでした。
それでも、なんとなく運動は続けなければという気持ちもあり、(いつか剣道の稽古を再開したい、と言う気持ちがあったかもしれません。)怪我の回復に応じて、近くにテニスコートがあったこともあり、テニスをはじめました。
今回の稽古再開に当たって、これまで週2回程度のテニスを続けたことが、体力的な不安を解消するのに役立ったと思っています。
平成14年9月、市の剣道連盟に入会し、週1度の合同稽古に参加することにしました。六段取得後、29年が経過し、怪我をしてから18年ぶりの稽古でした。
再開に際し、何か目標を設定したほうが良いと思い、自信はまったくありませんでしたが、「70歳までに七段」を目標としました。約7年間の時間があります。偶然「7」が三つ並びました。後で考えるとラッキーな目標設定でした。
2 稽古の経過
稽古再開から今日まで、稽古を逐次増やしてきましたが、概ね次の三段階に区分できます。
(1) H14.9〜
剣道連盟の合同稽古は、週に一度、日曜日に市内の体育館で行われています。中高生なども参加していますが、大部分は四、五段以上の高段者です。年齢的には、私より年配者は僅かでした。
このような環境での30年ぶりの稽古は、当初、身体的にも、精神的にもかなりきついものでした。
気持ちは試合に出ていた若い頃のまま、体は老人ですから、気持ちが空回りし、思うような剣道ができないのは当然です。勿論、楽しい剣道からは程遠いものでしたが、続けていく内に何がしかの進歩を感ずるようになってきました。
この間、努めて上位の先生方にかかり、初心に帰って稽古したつもりです。
ご指導頂いた事項は、概ね次のようなものでした。
・攻めがない。ためがない。攻めるときに剣先を外さないこと。
・無駄打ちが多い。打ちを1/3に減らせ。
・さし面気味の面が多い。しっかり、強く打つこと。
・面を打つときに、左手が中心を外れる。
・籠手を打つときに、姿勢が崩れる。
・自分勝手な稽古である。
毎回の稽古では、これらのことに注意しつつ、下位者との稽古においては、特に次を意識して稽古しました。
・大きな、正しい(真っ直ぐの)面を打つ。
・応じ技を身につける。
・打たれるときは、きれいに打たれる。
・体勢の崩れない体捌き、足捌きを身につける。
・風格のある姿勢、動作を身につける。
(2) H15.9〜
稽古を再開して約1年が過ぎ、体調も問題なく、稽古に打ち込めることが分かりました。これまで週1回の稽古でしたが、稽古量が少ないことから、この時期から、平日に1回の稽古を増やしました。子供や初心者の指導が主でしたが、正しい打ちを身に着けるには良い稽古になりました。
(3) H16.3〜現在
稽古量を確保するため、この時期から更に週1−2回の稽古を増やしました。近くの体育館で行われている稽古会に参加することにしました。稽古会には七段挑戦中の人も多く、昇段審査に備えた稽古ができたと思います。この時期は、週3−4回の稽古ができました。
稽古を通じ、自己のレベルアップができたのは勿論ですが、七段の先生方が、夫々に独自の攻め方、打ち方を持っていることがわかったことが大きな成果でした。
3 昇段審査受審暦、反省等
・稽古を再開して約1年後、29年ぶりに平成15年11月の昇段審査を受審しました。
心構えが不十分だったこともあり、無我夢中に打ち合っている内に終わりました。一人目が終わったときに息が切れたのを記憶しています。
・平成16年5月と11月の審査を受審しましたが、良いところなく不合格でした。何れの審査も、終了時に手ごたえをまったく感じませんでした。
・高齢者(65歳以上)の合格率の低さ(5−6%位か?)、自らの審査受審の経験から、よほど目立った、抜群の立会いをしない限り合格は難しいと感じました。
出番を待つ間に拝見した大部分の受審者は、互いに不十分な攻めから面を打ち合い、持てる力を発揮することなく終わっているように見えました。
・自らの反省としては、初太刀にこだわり、不十分な攻めから打って出て、結果的に失敗し、更に「何とか取らねば」との焦りから意味のない無駄打ちを繰り返す結果になっていました。そして双方が有効な打ちを出すことなく、共に不合格となっていました。
4 昇段審査に備えての稽古
細かい計画を作成して稽古をしたことはありませんが、概ね次を重点にしました。
(1)全般
・風格のある剣道を目指し、立ち居振舞いに気を配る。
・稽古に際し、技術面の具体的な目標を設定し、漫然とした稽古にならないよう留意する。
・稽古の最初の数分間は、審査のつもりで立会う。
・審査が近づいたら、立会いのシミュレーションを行い、時間の感覚を覚える。
(2)技術面
・しっかり中心を攻めて、打突の機会を作る。
・左手が中心を外れない正しい面を打つ。
・無理、無駄打ちを避け、好機を逃がさない。
(3)精神面
・常に相手と対等もしくは、自分が上位であるという気位をもって立会う。
5 今回の審査
(1)受審の心構え
これまで審査を見てきて、合格には抜群に目だった立会い、即ち「強さ」が求められていると考えていました。しかし、審査は、技術的力量の絶対評価であることから、必ずしも相手より強い必要はないことに思い至りました。
当然のことですが、自分が段位にふさわしい力を持っていれば、審査の場で、それを十分に発揮することにより合格できるはずです。同じ目標を持って立会いに望む相手のある審査の場で、如何に自分の力を発揮するかが課題です。
今回の審査においては、次の心構えで望むこととしました。
・しっかりと攻めて、打突の機会を作る。
・打突の好機が来るまで無駄打ちをしない。
・打つ機会には迷わず全力で打ち切る。
・上記「心構え」を堅持する。結果的に、1本も打てずに不合格となっても良しとする。
(2)審査の経過
今回の審査は、第5会場(63才−66才グループ)の最後に近い出番でした。午後の部前半の合格発表も厳しいものでした。前回までの審査では、出番を待っている間、立会い開始後の攻めや、初太刀の打ち方を頭の中でシミュレーションしていました。
今回は、最初から打つことが念頭にはなく、打突の好機を待つことを決意していましたので、ただ攻めることだけを考えていました。
・立会い(一人目):開始後、おもむろに、間合いをつめ、攻めてみるもあまり反応がありません。強い気迫も感じませんでした。攻め返してもこない。打ってきたら応ずる余裕を持ちながら、更に、中心を攻め、間合いを詰めると相手に一瞬ひるんだ気配があり、思い切って面を打ちました。これがきれいに決まりました。
初太刀が決まり少し落ち着きました。更に同様の面が、一本決まりました。これで完全に落ち着き、以後はこちらのペースとなり、面を引き出して出小手、と面返し胴を決めました。残心もしっかりとることができたと思います。
・立会い(二人目):一人目が順調に経過したので、「心構え」を再確認しつつ、慎重に様子を見ました。相手は積極的に出てくる様子がありません。
一人目と同様の面を二本打ちました。返し胴を打たれましたが、攻め勝っていたと思います。(終了後、相手から“苦し紛れの胴”と聞く)。更に、相手が打ってきた面を、余し、捌きながら引き面を打ちました。これもきれいに決まりました。ここで立会いが終了となりました。
・今回は、これまでの審査の反省点である無理、無駄打ちはほとんど無く、会心の立会いができたと感じました。相手から有効な打突を受けることもなかったと思います。
・立会い終了後は合格の感触を持ちましたが、もしこれで不合格ならば、未だ七段にふさわしい技量が無いことであり、穏やかな気持ちで発表を見ることができました。
(3)合格の要因
前回の審査から半年、急に技量が上がる訳もありません。また、受審者は皆ベテランで技量に格段の差があるとも思えません。しかし、結果はまったく違ったものとなりました。
合格の要因として、一つは、自分の剣道の調子、体調や気分、相手との相性などの要素が、このときにうまくベクトルが合う“運”があったと思います。
二つは、その巡りきたチャンスに基本通りの打突ができたことだと思います。
“運”を自分の力でコントロールすることは難しいので、地道に稽古をして、“運”を活かすことだと思います。
6 まとめ
今回、難関の七段審査に合格し、正直なところ自分でも驚いています。2度とできない会心の立会いだったと思っています。
今回の審査において、これまでの審査と一番大きく異なったのは、立会い前後の気持ちの持ち方でした。絶対に合格したい、必ず初太刀を取りたいという気持ちがまったくなかった事です。
打つ機会をしっかり捕らえることを第一に、自分の打ちを出せば良いと思っていました。従って、審査結果も、合否何れでも平静に受け入れる気持ちができていました。
一見、悟りきったような態度ですが、日々の稽古を通じ、他の受審者に対し絶対的な強さなど望むべくもない自らの力を知り、稽古で積み上げた自分の正直な力を全幅発揮する方策を考えた結果の開き直りでした。
結果的に合格できましたが、自分の技量はよく分かっているつもりです。これからも段位にふさわしい剣道を目指し、努力したいと思っています。
最後に、しっかりした基礎を築いて頂いた高校時代の恩師、ご指導を頂いた諸先生方、そして共に稽古に励んだ剣友の皆様に感謝したいと思います。
[終] (H17.07.07記)
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